その昔、葦屋の沖に住んでいた龍神が、打ち振ると願い事が思い通りに叶うという不思議な小槌を持っていました。しかし困ったことに、鐘の音が聞こえると、それまで打ち振り出したものが消えてしまうと言うのです。龍神は持っているのが面倒になり、朝廷へと小槌を献上しました。朝廷は珍しい宝物をもらって喜びましたが、都にはたくさんの寺や神社があり、一日中鐘の音が鳴り響いています。やはり扱いに困りました。すると、打出の長者が手柄を立てて都へ来ていたので、その長者に褒美として小槌を授けました。珍しい小槌を長者が打出へと持って帰ると瞬く間に村中に伝わり、みんなの前で振るってみることにしました。何が欲しいか長者が聞いてみると「黄金の小判」と言ったので、黄金の小判を願いながら、小槌を振るとたくさん出てきました。その時、どこからか鐘の音が聞こえてきたので、すっかり消えてなくなりました。消えたあと、長者も村人たちも「良い夢を見させてもらった」と言ったそうです。

当神社が鎮座する打出は、西国街道がはじめて海岸に打ち出るところでした。古くから交通の要地であった打出は、幾度となく戦火に見舞われ、本殿をはじめ喪失し、当神社に古記録は残っていません。創始は明らかではありませんが、古来、産土神様を祀っていました。その後、天神信仰が盛んになった、室町時代に葦屋荘が北野天満宮の社領地となったことから天神さま（菅原道真公）を勧請し、現在は打出天神社と称します。江戸時代の街道図絵の資料にも当時の神社の様子が偲ばれます。境内に隣接する金津山古墳には、打ち出の小槌伝説とともに「朝日さす入日かがやくこの下に黄金千枚瓦万枚」の歌が伝えられています。